英国モラトリアム録

ロンドン南東在住の妙齢による日々思うところの記録。音楽/映画/ミュージカル/アニメ/料理など

まるで上質の小説を読んでいるよう(昭和元禄落語心中)

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本日最終回でしたね。2期制作決定万歳!

アニメファンと自称できるほど多くを追いかけてるわけではないけど、ハマったものはとことん追うタイプです。そんなわけであまりリアルタイムでチェックするタイトルも多くないんですが、こちらは例外でした。大変面白かった。

伝統芸で表現する伝統芸

まず、題材である落語でがっつり勝負しているところが素晴らしい。1話20分強ぐらいという尺のなかで、その4分の1にあたる5分ほどをまるまる落語1ネタに使ってくる心意気といったら!もちろんそれは声優陣の持っている魅せる力あってのもの。助六(CV:山寺宏一)のぐいぐい持っていくようなエキサイティングな落語、それとは対照的な菊比古(CV:石田彰)の艶っぽく影のある美しい落語。どっちもただ喋ってるだけなのに全く目が離せない。

背景の描き込みや色使いもため息が出るほど綺麗(一番のお気に入りはほおずき市の様子、あれは別格だった)。過去編の舞台である太平洋戦争ごろ〜昭和30年代ごろの日本の暮らしぶりを垣間見れるのも興味深かった。声しかり画しかり、これまでのアニメ史のなかで培われた良きところ、すなわち「伝統」の総動員をもってして、「伝統芸能」という落語を表現している、というなんとも粋な構図であったと私は思います。

じっくり味わう人間模様

要は落語をめぐる人たちの生き方を描いたストーリーなんだけど、登場人物はあまり多くない。そのうえ、モノローグがあるのは菊比古だけ。なので、助六やみよ吉(CV:林原めぐみ)の思うところはこちらが推し量るしかないんです。噺家さんたちの話なのに、彼らの心のうちとなると(菊比古を除いて)直接的な描写が極端に少ない。

アニメというのは尺の短さもあって、記号的にわかりやすく、テンポよく作られることが多いと思うけど、これはちゃんと「間」だったり、情景だったり、セリフの行間を読んで味わうことがよしとされる大人向けのつくりだと思います。だからまるで小説を読んでるような気分になったりした。

話の内容は八雲(菊比古の襲名後の名)による過去回想編が主なんですが、メインストーリーの時間軸における人物関係や事実・設定を考慮すると、だいたいその回想のなかでどういうことが起こって結末はどうなるのか予想はできてしまう。それでも惹き込ませてくれるんだから大したもんです。

 

落語って面白いねぇ。話の展開自体のおもしろおかしさ、もあるけど、それを通じて描かれる当時の人々の生活や風俗が生き生きとしているのがいい。次回日本に一時帰国するときはぜひ寄席に行ってみたいなぁ。末広亭は何度も前通ったのに、その周りの飲み屋にばっかり吸い込まれちゃってたわ。 助六的な生き方してるわぁ。